良いお年を・・・

秋に知らせは届いた・・・ずっと気になっていた・・・忙しさを理由に・・・会えずにいた・・・

友人から口伝えに聞いた彼の病名は・・・癌・・・かなり進んでいたようで・・・そのときが来るのもいつになるかと、友人から涙声に聞かされた・・・『早く会いに行ってやってくれ・・・』 しかし、私は、連絡も出来ずにいた・・・

彼とは中学を共に過ごし、一緒にサッカーに打ち込んだ。彼はゴールキーパー。 チームは彼が守り、中学では良い成績を修めた。生徒会長が彼、私は生徒会副会長。サッカー部では私が主将、彼が副主将。サッカーでは数々の選抜でも共に地元の代表として頑張ってきた。彼は勉学においても優秀で、秋田県第一の成績優秀者が集う高校に進学した。その後も国体選抜や私の高校に彼が練習に参加するなど、サッカーを通じた交友は続いた。彼は日本代表候補の合宿にも参加するほどの選手になった。その後、互いは別々の道に進み・・・彼は筑波大に進み、一流企業へ就職したことを風の便りに聞いた・・・

彼から突然電話が来たのは、彼が企画するラジオ番組への出演依頼だった・・・生収録も電話での出演の為、彼とは直接会えず終いに・・・『久しぶり!!今度は絶対会おうね!!』・・・それももう・・十年も足っただろうか・・・(会いに行かなくちゃ・・・)

愛知県の合宿を終え翌早朝、思い切ってメールをしてみた。私の訪問など・・・喜ぶだろうか・・・想像もつかないほどの彼は苦しみの最中・・・私に会うだろうか・・・
   
すかさず、返信は届いた。『会いに来てくれるの!?うれしいなぁ。でも、無理しないでね・・・』病室の番号が打たれていた・・・(あいつ・・・待ってるっ!!会いに行かなくちゃっ!! )

疲れなど・・・私は布団から飛び起き 身支度もそこそこに高速を飛ばした。道すがら・・・何度も何度も彼との思い出を・・・繰り返される追憶に・・・目頭が、鼻の奥が、噛み絞める奥歯が・・・その日の高速道路の景色は素晴らしく綺麗で、その『綺麗』が、また胸を締め付けた・・・あと・・・何度・・・?見れるの・・・苦しいとき、この景色を『綺麗』と受け止められるものなの・・・

私は 病室の扉の前にいた。昔みたいに・・・時間の経過を感じさせないように・・・何もなかったかのように・・・おどけてみせよう・・・
『うわぁ本当に来てくれたんだ!!大変だったでしょ!! 』『変わらないねぇ。あいかわらず・・・そのまんま大人になったって感じだねぇ。ホントに嬉しいなぁ・・・』

部屋はカーテンが閉められ少し暗かった・・・私のぶっ壊れた涙腺から溢れ出るものを誤魔化してくれるには調度良かった・・・できるだけ・・・無理矢理に明るくやり過ごそうと・・・気負っていた私を・・・彼は笑顔で迎えてくれた・・・。彼は隠すことなく現在に至るまでの経過と病状を教えてくれた・・・そして、これまでの互いの人生や現在の状況などを話した・・・

『娘は来年から中学生・・・付属中に受かったんだよ。おれは落ちたのに・・・ははは』『家族でよく仙台に行ってたんだよ!越川おれの待ち受け見て!!牛タン!! ははは・・・』『牛タン大好きなんだよ!!うちの奥さんと娘と仙台の街中を買い物するのが楽しくてさ!!』『切除することは無理みたい・・・薬で抑えて行く感じ・・・』『でも、今すごく効いてるんだぁ・・・仕事も復帰したいし!!』

わたしのように好き勝手生きて、健康診断も健康維持にも気を使ってない不摂生なやつが・・・それでいて何の悪いこともしないで、真面目に生きてきた君がなぜ・・・私は道すがら考えていた人生の不条理を彼に話した・・・

『越川の生き方は・・・力強いよね。いいなぁ・・・おれは・・・レールの上を歩いて生きてきただけ・・・』『ここからは・・・少し人生を楽しんで行こうかなって思ってる。 病気になってからよく分かった事もあるんだぁ』『奥さんにも優しくなってさ!!ははは・・・』『そうだ!!目標できた!!良くなって自宅で治療できるようになったら仙台に行くよ!!』『おう!!家族で来てくれよ!!仙台観光おれがするから!!牛タン連れて行くよ!!』

胃癌、転移で腸閉塞も併発し、横隔膜にまで癒着、腹水も溜まって20kgも痩せた・・・身長は187cmもあるのに・・・私よりも体重はない・・・五部粥をようやく食べ始めたばかりなのに、もう牛タンかよ・・・・・・などとふたりで笑った・・・

時が止まったように・・・あの頃が甦るかのように・・・時を巻き戻して・・・夢中で話した・・・時折ワンフレーズ・ワンフレーズに・・・胸が苦しくなり  堪えた瞬間があった・・・話は尽きないくらいあった・・・でも、時間は止まってはいなかった・・・この間にも、彼は進行している・・・いつかのそのときに・・・私よりも、足早に・・・

『薬で進行を遅くしながら生きてくうちになんだかんだとお互い65歳も過ぎちゃっててさ。なんだ結局同じくらい生きながらえたね!!なんてなるかもよ!!  ははは・・・』『うん・・・そうだね!!でも、65・・は難しいかもね。・・・・ 』ふたりは・・目線をそらした・・・。苦しくなった空気に 突然彼が・・・『あっ越川のドリブルが見たい!!』『マジ!?・・・必ず見せっから!!もう一度鍛え直しておくから!! 』・・・・

『またね。必ずまた来るから・・・』『今日は楽しかったぁ~ 必ず行くから・・・』『あれ?目が慣れたのかな?病室に入ってきたときの顔より顔色がすごくいいよ!! 』『本当!?』『あぁ あの頃に 戻ってるよ・・・』

たまらず・・・私は振り返り、入口のカーテンを閉め部屋を立ち去ろうとした・・・離れていく私の背に、彼は声を掛けた・・・

『こしかわっ!!・・・良いお年を・・・』  
『・・・あぁ、そうだよね。良いお年を・・・』

私は震えた手でカーテンを握り締め、もう一度開き掛けて手を止めた・・・心の奥からいっきに溢れ出したものを彼の前では決してこぼしてはならないと・・・部屋を後にした。

良いお年を・・・こんなにも大切な言葉だったよ・・・
友達・・・こんなにも大切だったよ・・・

Published on 2012.12.31 at 14:41 by Sendai FC Staff

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