オス・・・その2

『オッスっ!!』『おう、元気にしてますかぁ?用事があって仙台に行くから。寝るだけなんだ。どっか安い所探しておいてくれ。ホントに安い所だぞ!!金がねぇんだから!!』私の高校時代の恩師、サッカー部の監督からの連絡でした。

先生の現在の状況は聞いていた。49歳、高校サッカーの名将はこれからというときに監督を退いた・・・。突然。いろんな噂が飛び交ったが、真意は本人にしか分からず・・・。また、先生自身も何も語らなかった。人生そのもののように大好きだったサッカー・・・しかし、後進に道を譲るとなるとまったくと言っていいほどグランドには顔を出さなくなったと聞いた・・・。自身も同じ学び舎で、そして高校時代には全国優勝を果たした・・・すべてを捧げた母校のサッカーへの情熱が染み込んだ生活のすべてが幾人の教え子を育てた聖地、幾人の涙や汗が夢が染み込んだ・・・グランド・・・。そのグランドを・・・離れると決めたらきっぱと・・・その様、まさに潔し・・・。その後、母校の教頭そして校長を務め退職・・・。・・・そして突然のJFLブラウブリッツの社長に就任。現在は会長を務める。

『今、高速乗らないで下道走ってるんだよ。金ねぇからよハハハ。ナビ付けてるんだけど、これどこに向かってるんだ?ナビしてくれねぇか?ハハハ』『おす!!』『何度も悪いな。どこ通るんだっけ?』『おす・・・』『おぉ やっと残り50kmだよ。後一時間くらいだろ。いやぁ~道スイスイだよ~』『お、おす・・・』『あの後信号増えて車も増えて、やっと駅裏着いたんだけど、このナビ古いんだな、待ち合わせの場所までナビしねぇや。案内してくれ。悪いな。頼むよ。』 『・・・おす』先生は何度か電話をよこし、5時間ほど掛かって仙台に到着した・・・。

『18時からの表彰と懇親会なんだけど、19時には出て来るから。おでん三吉に行こう。迎えに来てくれ。』私は19時前に迎えに上がった・・・待った・・・いや待たせて頂いただな・・・恩師だもの・・・きっとなんだかんだと言っても、懐かしい人に会って抜けられないんだな・・・待ってよ・・・・・・もう、20時だけど・・・まぁ、年寄りは宴たけなわになってから長いからな・・・待ってよ・・・電話をした・・コールは鳴るが、出ない・・・。ずいぶん話し込んでるんだな・・・もう21時だけど・・・。

『3階の宴会は20時に終わりました・・・。はい・・・。』フロント・・・。・・・待った。いや、待たせて頂いただな・・・。今日、練習行けたな・・・うん・・・。  まさかね・・・

『すいません。 先生行ってますか?』おでん三吉に電話した・・・。『先生ですか?お待ちください・・・・・・・・・・・・・・・・・・』『なにやってんだ!!馬鹿野郎!!どこにいたんだ!!早く来い!!』『オス!!先生待ってて・・・ あの・・電話もしたん・・・』『電話ぁぁぁぁ!!?部屋に忘れたよ!!いいから早く来い!!』『おおおおお・・・おすぅ・・・』

・・・待たせて頂いただな。うんうん・・・たまにはグランドから離れるのも、いい時間だな・・・。待った。待った。待った。待った。待った。待ったぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

『おぉ、まぁ、飲め、ハハハ』・・・何もなかったようだ・・・。・・・マッタ・・・いや!! 何、も、なかっっっっっったぁぁぁぁぁ!!・・・・・『いやいや!! おれもこんな人生になるとは思わなかった!!』『おれもバカだなぁ~って思ってるけど・・・おまえもずいぶん大変だったなぁ!!ハハハっ 』『人生いろいろあら~なっハハハっ!! 』

先生はサッカーから離れると同時に教頭・校長になるべく勉強され、いずれは教育委員会へと・・・しかし、先生は夢に生きた・・・約束された安定の生活を蹴り飛ばし・・・もしくはこの国の教育に取り組むと考えていた思いと裏腹に、夢を選択されたのかもしれない・・・。飲んでるときも、しきりに繰り返すのは今後のこの世の中の教育の行く末・・・ 『子供達がこれからこの日本を・・・』節々にこの言葉は繰り返された・・・。教育に情熱を捧げてきた先生の思い・・・。その教育は、あの頃僕らが先生から感じた怖さ・・・身体で覚えた厳しさ・・・とは全く真逆の優しさに溢れていた思いだった・・・。

・・・・・・・3時まで飲んだ・・・。 『あれ・・・今・・何時だ?????あ・・・玄関午前1時で閉まるって言われたなぁ。ホテルまで送ってくれ。悪いな。』『おふぅっ・・』・・・・・・・・『先生・・・ 鍵閉まってます。』『なんとかなるべ・・・開けてくれ。』ふたりで裏口や窓が空いてるかとウロウロと・・・  

『先生 風呂の窓がわずかに空いてますが・・・通れないっす・・・。仕方ないっす、夜中ですがホテルに電話します・・・』『お客様、鍵をお持ちになっておられますので、そちらで左のドアから入れます… 』『・・・・ んだ。出掛けるときに言われたんだ、ハハハ。部屋まで送ってくれ。』『おすぅ・・ 』『明日起こしに来てくれ・・・なんもないだろ・・・。お茶でもするべ。よろしく!!お休み。』『おぉぉぉぉぉぉぉ~すぅ~ 』・・・・・・・

ゆっくりめの朝食を済ませた先生と、ファミレスに入った。大の大人が現代の子供のようにドリンクバーで4杯もジュースを飲み、いろんなことを雑談した・・・私が現役時代の昔話にも花が咲いた・・・。『ホントかぁ~いや~すまねぇ。そんなことあったのかぁ。まったく分からなかったよ。大変だったんだなぁ~』互いの身の上話もなぜか笑えた。

『先生、実は仙台にいたときにもう先生に合わす顔がないとまで落ちましたよ。僕自身はどう思われてもいいんですけど・・・母校の、サッカー部の名を汚してるんではないかと・・・うしろめたい時期がありました・・・。』『わかる。いやいや、おれもそうだ。今でもそう生きてるよ。』

私はまた坊主頭に白い練習着のあの頃に戻っていた。先生とバスに乗り込み遠征に行こうかと・・・。ぶたれ、蹴られ、走らされ、ボロボロになりながらもそれでも強豪相手に挑み、恥をかき、喜び・・・。ともに戦ったあの頃に戻りたいと・・・  

『先生、また遊びに来てください。手ぶらでいいです。また、学びたいです・・・ 』『何学ぶ事あるって??おれより経験してるよ、あなたの方がずぅっと・・・』『いやぁ ホントに楽しかったよ。現実に引き戻されるなぁ~。このままどっかに行きてぇなぁ~ハハハ・・・』『人生いろいろあら~な。ふふふ・・・いやぁホントに世話になった。』『越川・・・ありがとう・・・身体に気を付けて頑張ってください。』 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オスっ 』嬉しくて・・・言葉に詰まりそれしか出なかった・・・

オス・・・ 都合のいい言葉だった。ただ、その一言・・・それだけで先生に伝わった気がした。

先生・・・まだまだ、届きません・・・押し耐え忍びます・・・・押忍!!

Published on 2012.09.12 at 10:42 by Sendai FC Staff

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